本記事は下記動画の一部内容を加筆しまとめたものです(画像をクリックすると動画に飛びます)
はじめに
近年,ChatGPTや生成AIは発展に発展を遂げ
「人間の仕事は機械に奪われる」といったことも良く耳にするようになりました
ですが,彼らは本当に私たちの存在を脅かすような”敵”なのでしょうか?
人間と機械の間で「より良い関係性」というものを作ることができれば
彼らは私たちを脅かす敵ではなく,共に未来を創る”友人”となりえるのではないでしょうか?
そのような背景から,人間と機械の関係性について考えている学問が
私が専攻しているHuman Agent Interaction(HAI)です
…とか高尚なことを宣っていますが,私がこの学問に興味を持ったのは
「SF作品に登場するアンドロイド的存在について研究できるのでは!?」
と思ったからです.ちなみに実際にそのような内容も研究されてますよ
というか卯木さんは「アンドロイド的存在について」という
HAIという研究領域の中でも”限定的な分野”に傾倒しているので…
以降で紹介する内容もバイアスが含まれている可能性があります
その点についてはご了承くださいね
Human Agent Interactionってなんなの?
Human Agent Interaction[通称:HAI(エイチエーアイ)]は以下の内容について考える学問です
人間(Human)と機械(Agent)の相互作用(Interaction)
とか言われても「??」ですよね…
なので,それぞれの要素について少し深掘りしてみたいと思います
人間(Human)
これは私たちのことですね
自由な意思を持ち,それに基づく行動ができ
コミュニケーションというものを通して他者と関わり,社会というものを形成することができる
「自律性(Autonomy)」や「社会性(Social Ability)」といった要素を有する対象を指しています
また、抽象的な表現となりますが「心を持った存在」とも定義することができるでしょうか
エージェント(Agent)
これは上述した“人間を構成する要素(自律性とか社会性とか)”を
有している(もしくは有しているように見える)システム全般のことを指しています
例えば,国内会議である「HAIシンポジウム」ではエージェントのことを
「外界とのインタラクションを通して自律的にふるまうシステム」と表現しています [1]
要するに「人間みたいな機械(=システム)」だと解釈していただければと思います
“心をもった機械”的なサムシングです
ちょっと専門的な話
エージェントの定義は論文によって様々ですが,だいたい次の4要素が重要とされています[2]
- 自律性(Autonomy)
何らかの情報に基づき,自ら判断したり調整ができる
タスクの選択・優先順位付け・目標指向の行動・自分自身での意思決定などができる
(agents have capabilities of task selection, prioritization, goal-directed behavior, decision-making without human intervention) - 社会性(Social Ability)
他者を理解し,やりとりや関係性を円滑にすることができる
何らかの対話や調整を通じて構成要素に関与することができ,タスクで協力することができる
(agents are able to engage other components through some sort of communication and coordination, they may collaborate on a task) - 反応性(Reactivity)
入力に対応した出力がある.互いに反応を返しあう双方向性を有する
エージェント自身が置かれている立ち位置(コンテキスト)を認識,それに適切に反応できる
(agents perceive the context in which they operate and react to it appropriately) - 永続性(Persistence)
見えていなくても”その場で活動し続けている”と思わせることができる
処理が必要に応じてその都度実行されるのではなく,継続的に実行され続けており
その行動をいつ行うべきかを自ら決定する
(code is not executed on demand but runs continuously and decides for itself when it should perform some activity)
一応「Agent」の定義としてはこの4要素が挙げられていますが
実際は,上記要素を総合的に捉えた「存在性」[3] というものが
指標としてよく使われているような気がします
アンドロイドの研究で有名な石黒先生の著書 [4] でも
取り上げられていたのは「自律性」と「存在感」でした
相互作用(Interaction)
この言葉には,次のような意味合いが込められています
- ”人間”と”エージェント”はどのように関わっていくべきなのか(関係のデザイン)
- そのためには”エージェント”をどのように作り上げればいいのか(情報のデザイン)
ですので,HAIという研究領域は
「心理・倫理的な側面」と「工学的な側面」の両方を扱います
例えば,HAIの代表的な専門書 [5] では,関連領域として次のものを挙げています
- 社会科学
- 認知科学
- 社会心理学
- 発達心理学
- 哲学
- 工学
- 機械学習とマルチエージェントシステム(MAC)
- ロボティクス(特にHRI)
- ユーザモデリング
このように,HAIという領域はいろいろな分野を包括しており
様々な内容を研究の俎上に載せることができる点が,特徴として挙げられます
HRIやHCIとの相違点はどこにある?
HAIと似た分野として
Human Robot Interaciton(HRI) [6] や Human Computer Interaction(HCI) [7] が存在しますが
それらとの明確な違いは「インタラクションの対象としている範囲が異なる」点です
HRIやHCIは”前提”としてインタラクションを行う対象を
「ロボット」や「コンピュータ周りのデバイス」に限定しています
ですが,HAIがインタラクションの対象としているのは「自律的なシステム」ですので
その定義を満たしさえすれば,「ロボット」でも「デバイス」でもなんでもOKです
ちなみに「人間」も一種の「自律的システム」として解釈できます
(例えば,Dennettの「多元的草稿モデル」[8]とかは有名ですね)
なので「人間とエージェントとのインタラクションを考える」と
一重に言っても,HAIでは次のように細分化することができます
・人間 v.s. ロボット(実世界に形のある対象)
・人間 v.s. アバタ/仮想エージェント(実世界に形のない対象)
・人間 v.s. デバイス(GUIとか)
・人間 v.s. 人間
このような特徴を有することからHAIにおいては次に示すような
「インタラクションをする対象そのものについての研究」も俎上に載せることができ
対象の違いや有用性について議論できるのが「HRI」や「HCI」と大きく異なる点です
- このタスクにおいてはアバタよりGUIの方が適しているのでは?
- このタスクでは自律的なシステム(ロボット・アバタ・デバイス)では対処できない
人間に対処してもらうために,人間の力を最大限引き出せるような枠組みを作るべき
HAIにおける3つの系統
HAIは「人間とエージェントとのインタラクション」を考える学問ですが
上述したように”エージェント”という単語が表す範囲が広いため
研究領域の中でも大きく分けて3つの系統(インタラクション)が存在します [5]
人間とロボットとのインタラクション
HRIを源流に持つ系統です
基本的にPepper君やAIBOといった市場に出回っているロボットを用いて研究するため
エージェントの「外見」や「動作」といった部分に関する自由度は低いです
なので,「エージェントはどのような役割をこなすべきか」といった
”関係のデザイン”に焦点が当たりやすい印象です
最も歴史があり,そして最も研究が盛んな系統です
最近では「ソフトロボット工学」[9]といった分野も生み出され
今後も発展が期待される系統となっています
人間と仮想エージェントとのインタラクション
HCIやHI(Human Interface)を源流に持つ系統です
イメージとしてはカゲロウプロジェクトに登場するエネさんみたいなやつです
UI研究の延長線上にあり,ロボットに比べてエージェント設計における自由度が高いため
「こういった見た目とかこういったふるまいをさせるといいんじゃない?」といった
“情報のデザイン”に焦点が当たりやすい印象です
私が専攻しているのはこの系統ですね
「”個性”を表現するにはどのチャンネルが重要なのか」
といったことを考えるには設計の自由度が高い方が良きなので
エージェントを介した人間と人間のインタラクション
CMC(Compter Medieited Communivation)という学問を源流に持つ系統です
前述したように「エージェント」という単語には「人間」も含まれます
ただ,「人間と人間における関係性」は対人心理学等の専売特許ですので
ここでは「エージェント(=システム)を介した人間同士のコミュニケーション」
という狭い範囲に限定しています
ここには,SNSやAR・VRを用いたコミュニケーションなどが該当します
また、近年では主流となっているVtuberは
まさに「アバタを介して人と人がつながる」という
この系統に合致しているようなコミュニケーション形態です
なので,HAIではVtuberについての研究もできます(多分…)
おわりに(HAIが目指すところ)
このようなことを研究するのがHuman Agent Interaciton(HAI)という領域ですが
最終的に目指しているのはなんなのかというと
人間と共生するエージェントの実現です
SF作品で描かれる「人間と機械(=エージェント)が一緒に生きている世界」を
「ただの夢物語」と馬鹿にせず,真正面から考えているのが私たちです
※これはあくまでも私の見解なので.正しいわけではありません
また,そういった浪漫のある話とは切り離した内容として…
ChatGDPや生成AIといったエージェントが台頭してきている現代において
それらに対しての倫理的アプローチや関係性の在り方などは考慮すべき事柄です
そういった場面において,この領域で積み上げてきた知見は必要となるでしょう
今後,需要が高まってくる学問領域と考えられますので
ご興味のある方は,これを機に少しだけでもHAIに触れていただけたらと思います
これからも,HAIに関する内容を記事にしていきますので
よろしくお願いします…!!
参考文献
著者情報や書誌情報は遷移先のサイトにてご確認ください
- HAIシンポジウム2024 > HAIとは?
- Software Agent – Wikipedia(EN)
- Toward a More Robust Theory and Measure of Social Presence: Review and Suggested Criteria
- ロボットと人間 人とは何か
- 人とロボットの<間>をデザインする
- Human-robot interaction – Wikipedia(EN)
- Human-computer Interaciton – Wikipedia(EN)
- Multiple drafts model – Wikipedia(EN)
- いいかげんなロボット